担当者の活動の様子CSR活動でNGOを支援
この記事は「日経WOMAN.net」からの引用であり、国際支援ジャーナリストの吉田鈴香さんの執筆によるものです。
本サイトへの掲載についてはご両者から了解をいただいております。
CSR活動でNGOを支援する山ノ川実夏さん
大きな企業だけに、社業を通じてCSRをめぐるネットワークは幅広い。OBをNPOに人材として紹介して上手くいくことが増えたとか。なるほど、社会貢献活動は“仲人”に似ている。

国際支援は一部の人の手によるのではなく、国民総出 (all Japan)の取り組み、というのがいまや一般的な理解になってきた。 これが現実になった理由のひとつは、 企業が社会的責任(CSR)という概念でボランティア活動を推奨、実行するようになったからだろう。日本人は地域でのコミュニティー意識は薄れているが、勤務先に帰属意識を求める人が多くなった。つまり、企業はそれ自体がコミュニティーである。コミュニティーを挙げて人、物、金を提供する活動は、受益者のみならず、機会を提供するNGOにとっても、力を与えてくれる。今回ご紹介する山ノ川実夏さんは、まさに社員に国際支援の知恵と機会をアドバイスする、企業の社会貢献活動を90年代の初期から始めてきた、CSRのパイオニアである。
全国の社員に情報と知恵を与える
山ノ川さんは現在、三井住友海上火災保険株式会社の広報部・社会貢献室課長代理 兼 経営企画部CSR推進室課長代理を務める。全国の支社、本社、海外駐在員事務所を結ぶイントラネットで、ボランティアに関心がある社員をまとめ、年間約1400万円を全国のNPOに活動資金として助成している。誰かが、「私も何かやりたいのだけど、何ができるでしょうか」と、山ノ川さんに問うと、「こんなことができますよ」というメニューを知らせたり、イベントのやり方を手ほどきしたり、寄付先としてその人が働く地域のふさわしいNPOの候補を教えたりと、情報交流の要を果たしている。需要と供給のマッチングには、どこで何が必要とされているか、またそれを誰が実施できるか、どう実行するか、の情報が調整される必要があるが、その役割を山ノ川さんは果たしているわけだ。
ボランティアが編み上げたセーターを送るための作業中。大量輸送に応えてくれるNGOに配布を委託している。

山ノ川さんの提案で、三井住友海上グループは、「地域社会・国際社会の一員として、その持続的発展に貢献するとともに、社員ならびに代理店の社会貢献活動を支援します」と、社会貢献活動方針をまとめている。会社として積極的に乗り出すことと、社員個人と代理店の活動を支援すること、の2通りのやり方で進めている。前者は本業の保険業を通じて行う活動と、資金と物品の寄付活動などがある。後者のうち特筆すべきは、災害時の義捐金として集まったお金の同額を会社が拠出して、お金を倍にする「マッチングギフト制度」。有志が給料の百円単位以下を拠出して社会貢献活動に役立てる「スマイルハートクラブ」。現在の会員数は約4,100名。たとえば、クロアチアの子どもたちの絵をクリスマスカードに印刷して販売し、収益金で子どもの支援活動をしたり、毛糸を購入して社員の中から編み手を募り、編みあがったセーターを世界の難民・避難民に送ったり。最近ではクリスマスカード収益金を、スマトラ島沖の津波と地震の被害にあった子どもたちへの支援を行うNGOへ資金を寄付した。「困難な目にあっている方たちに、私たちは忘れていない、というメッセージを発信しているのです」と、山ノ川さんは言う。
CSRを「企業が社会的な責任をもって本業に邁進すること」と解釈していた私は、企業が社員個人の活動まで支援をすることに、いささかやりすぎでは?と疑問をもった。それに対して山ノ川さんはこう答えた。
「地域社会・国際社会への責任は、私たちの会社が掲げる7つのステークホルダーに対する責任の1つ。奥行き、幅のある人間になることが目的です。誰かを思いやる行為は、想像力を養うことになり、社員の質を向上させます。質の良い社員が働く企業は質が向上します。だから社会貢献活動は必要なのです」
実際、社会貢献を行う支店、代理店は非常に社内の雰囲気がよいという。社員が社業に前向きに取り組む。それこそが、企業がCSRの一環として社会貢献活動を追求する意義である。
社会貢献活動のはじまり
パネルディスカッションで発言中。社内外の人脈を築きつつ、社外の勉強会にも積極的に参加する。

山ノ川さんが社会貢献に携わるようになったのは、1991年から。大学卒業後1984年に住友海上に入社、社長室業務課に勤務していたが、1991年11月に、社会貢献担当者になった。当時の肩書きは、社会貢献活動事務室事務局長。1993年に創業百年を迎えることから、1991年4月に百年事業推進チームに入り、若手社員の「社員が社会貢献活動をやるべき」という提案を受けて百年事業に盛り込まれた社会貢献活動を担当することになった。とはいえ、当時一般的な理解は進んでおらず、「はじめは何をしたものか良く分からず、他社へ聞きまわり、方法を学んでいった」とか。試行錯誤を繰り返しつつ、バレンタイン・チョコに代わりカードの作成・販売、手編みセーター作成ネットワークの構築、余剰什器(備品)の寄付など、メニューを増やしていったのだった。
社業に通じ、社風を知ってこそ
2006年には業界の保険金未払い問題で「CSRを語れない企業になってしまった」というが、「営業停止期間を終えると以前にも増して、活動が広がってきた」とか。山ノ川さんは社会貢献活動のゴールをどこに定めているのだろう。 「初心者向けでいいと思っています。 これを契機にもっと発展した人は地域活動なり個人の活動に入っていけばいいのです。社内外への波及効果を期待するだけです」と、山ノ川さん。
ところで、グループ全体で2万人の社員がいる組織をどう動かしてきたのか、大変興味深いところである。実はその基礎は、入社後社長室勤務時代に会社の組織と業務についての基礎知識を身につけたことにあるようだ。例えば、職務権限規定集をワードに打ち込む作業。おかげで、副次的な成果だが、全社のどの部署が何を管轄しているかを把握できた。だから、1人で始めた社会貢献活動事務局の仕事でも、社内で協力を仰ぐべき適切な部署の見当をつけることができ、クラブ設立にこぎつけた。
「社会人になったら社会貢献担当になりたい」という女子学生には、山ノ川さんは冷ややかだ。社会貢献担当はコーディネーション業務なのだ。社業を理解し、社員の特徴、社風を知ってこそ、その会社らしい社会貢献をみつけられる。
企業の社会貢献活動はまとまった人数で、より多くの人々の心を表せるから、十分にプロの支援活動を勇気付けられる。また、協力するNPOも、企業に社会貢献の場を提供できた喜びを感じることができる。互いに支援の機会を都合しあえるところが、良いところである。


